人の脳は複雑です。
「あの人とどっかであった気がするけど思い出せない」
「声をかけられたけど誰なのかわからない」
このような経験はないですか?
その症状がさらに強くなった症状「相貌失認(失顔症)」といわれるものがあります。人の顔を極度に覚えることができない場合には「相貌失認」かもしれません。
相貌失認(失顔症)とは
相貌失認とは、人の顔が覚えられない状態や、その表情が識別できないという脳障害による失認のこと。
記憶力は人それぞれです。すぐに人の顔を覚えることができる人もいれば、なかなか覚えることができない人もいます。
顔を覚えること以外にも、その人の表情を読み取る力がないため、人の気持ちがわからない状態になりやすく、誤解をされるケースも多くあります。顔の表情で人間関係を維持しながら社会生活を過ごす人間にとっては、表情がわからないと不便な面が多いです。
二つに分ける相貌失認
相貌失認といっても、大きく2つに分けることができます。
1つ目は、生まれつき人の顔を覚えることが難しい「先天性相貌失認」。2つ目は、病気による認知機能の低下や事故のショックにより顔を認識する機能に何らかの障害が発生する「後天性相貌失認」です。
- 先天性相貌失認 …生まれつき
- 後天性相貌失認 …病気や事故など
相貌失認の発見
1947年にドイツの神経学者、ボダマーが病気を発見しました。ボダマーのもとへある患者が診察を受けにきたのです。この患者は頭部に外傷を受けたようでした。
彼の言葉からは信じられない発言が飛び出しました。それは家族や友人の顔が認識できない、わからないと悲痛な訴えをしてきたこと。
この患者は外傷を受けたことをきっかけにして突然症状が発症しました。
そのため違和感に気づいたのですが、先天性相貌失認の場合には生まれつきのため、顔の認知能力が一般よりも低下していることに気づきにくいともいわれています。
相貌失認患者はどのように見えてるの?
相貌失認の人たちはどのように人の顔が見えているのでしょうか?
その重度によって異なりますが、目・鼻・口などの顔のパーツは認識できるものの、これらのパーツが1つに合わさる「顔」になると認識できなくなる人が多いと言われています。
お正月に目・鼻・口などのパーツを顔の形にしていく福面遊びみたいな感じでしょうか?個々のパーツは認識できても、複数のパーツが一緒になることで複雑な情報処理が脳内で起きます。
目の角度、目の開き具合、口の角度や上がり具合、鼻の穴の広がり具合、普段何気なく読み取っている人の表情ですが、実は脳が複雑な処理をしたうえで、相手の感情を認識しているのです。
相手が怒り狂って敵意をむき出しにしているのに、その表情が笑って見えていたらどうでしょう?「笑っている」と思い、こちらもニッコリと笑います。
すると、相手の人は馬鹿にされていると思い、さらに怒ってしまうでしょう。顔の表情を読み取ることはとても重要なこと。そのため、その表情がわからない相貌失認の人は誤解をされやすいのです。
相貌失認患者の特徴
- 会ったばかりの人の顔が別の場所で会ってもわからない
- 芸能人の顔が覚えられない。顔がわからないためドラマや映画のストーリーがわからなくなる
- 表情が読み取れないため、冷たい人だと思われてしまう
- 表情が読み取れないため、空気が読めない人だと思われてしまう
- 同じ相手に何度も「はじめまして」と言ってしまう
- 仲のいい人でも、待ち合わせで自信を持って声をかけられない
- 写真と本人の顔を並べてみても、同一人物かどうかを認識できない
- 1年過ごしてもクラスメイトの顔が覚えられない
50人に1人いる相貌失認患者の衝撃!
人の顔を覚えることが苦手だと言う人をよく耳にしませんか?ちなみに、自分は顔の記憶力はいいほうだと思いますが、人の名前を覚えることが苦手です。
「すぐに顔と名前がリンクする人がうらやましい…」
顔の表情を認識することができない人は意外と多いです。全人口の2%、つまり50人に1人くらいの確率で相貌失認の人がいることになります。
家族の中も例外ではありません。子供が親の顔を認識できない人も多いのです。その逆もしかり。
顔をうまく認識できない人の問題は、顔認識に必要な部分が働いていないことではなく、顔認識に不要な部分を制御できていないことなのではないか?という、研究報告もあがっています。まだまだ解明できていない部分も多いようです。
顔の表情が認識できない人はどう判別してるの?克服方法
この顔はこの名前の人で、この顔はこの名前の人というふうに判別することができず、みんな同じ顔に見えてしまう…。
重度になると、まるで猫・犬・馬などの動物のようにみんな同じ顔をしている…。
顔がわからない人はどのように個人を判別しているのでしょうか?そこには人間の脳が秘める驚きの方法がありました。それは、「その道がダメなら別の道を探せばいい」ということ。
顔以外の情報をリンクさせる
人間は、顔の表情以外にも「声の質・話し方・態度・行動・身長・服装の好み」など、様々な方法で人を認識しています。
清楚だった人が急にギャル風にイメチェンをすると、その違和感を脳が察知してすぐに何かが変わったとわかります。
このように、脳は顔以外にも多くの情報からその個人を識別しているのです。顔のみが認識できなくても、それなりに社会生活や対人関係に適応することができます。
そのため、相貌失認持ちの本人も自覚症状がなく日常生活を過ごしていることも多いです。
名前を会話中に何度も呼ぶ
人には名前があります。
会話の最中に相手の名前を何度も口に出して呼ぶようにすることで、五感が名前とその人物をリンクさせます。「この人の特徴から~、え~と名前は~」と頭で考えながら引き出すよりも、繰り返された言葉により脳が記憶している引き出しから取り出しやすくなります。
メモやスマホで特徴を残す
その人には何か特徴があるはずです。
派手な服装?靴がかわいい?声がきれい?顔の個々のパーツは?なんでもいいのでその人の特徴をメモしておくと、顔がわからなくてもその人物を特定しやすくなります。会話の中に出てくる、趣味などの個人情報も記録しておくといいです。
おおまかに見える顔の特徴からその人物を見つけ出していきます。メモに書いて記録をすることで一層、特徴を覚えやすくなります。
カミングアウトする
どうしても難しいときには、カミングアウトしてみるのもいい方法です。
昔とは違い、現在では聞いたこともないような様々な病気があることを認識してる人は多くなりました。
「人の顔を覚えるのが苦手なんだけど、次に会った時にわからないかもしれないから、申し訳ないけど声をかけてくれると助かります」
「そうなんだ。わかった」と返答してくれる人が多いですが、中には「どういうこと?」と聞いてくる人もいるでしょう。人は知らないものを知りたいと思う生き物なので仕方がないところです。
素直に「脳に少し障害があるんだ」といえば納得してくれると思います。あまり病気のことを知られたくない人は、「50人に1人いるみたい」と付け加えておくといいでしょう。
「人の顔を覚えていないと失礼になる…」というプレッシャーから解放されると思います。
まとめ
個人の特徴で人を見る。
相貌失認は、ブラッド・ピットのカミングアウトで知名度が広まった病名でもあります。
杉咲花さんと高畑充希さんは顔が似てると言われています。でも、杉咲花さんと橋本環奈さんの違いがわからないというレベルの人もいます。
そうなるとドラマや映画では確かに、誰が誰なのかさっぱりわからなくなってしまうのも納得です。みんな同じ顔に見えているのだから。
ただし、「人の顔が覚えられない」ことや「全体像」がつかめないなど症状は、相貌失認だけではありません。自閉症やアスペルガー症候群、対人恐怖症などの障害でも起こる症状です。気になる場合には、専門医療機関で検査を受けると安心です。